2024.01.22
越境物の覚書について
「お隣さんの物置が土地の境界線を越えてこちらの土地に越境していたことがわかったけれど
お隣さんとは良好な関係なので今すぐどけろと言うつもりはない。でも、このまま黙っていて良いのか?」
そんな場合に検討するべきなのが、お隣さんと話し合って「越境物の覚書」を作成することです。
今回は越境物が存在する場合、土地所有者としてはどのような対処をするべきなのかについて解説します。
越境物とは
越境物とは隣地との土地の境界線を越えて
こちらの所有地にはみ出している物のことです。
冒頭のような物置小屋だけでなく、塀、屋根の庇、出窓、土中の水道管、ガス管
さらには樹木の枝や竹木の根などの例がよく見られます。
例えば親名義の土地建物を相続した際に改めて土地の測量をしたところ
お隣さんの所有物が境界線上を越えてこちらの土地上に
はみ出していると判明することがあります。
増築などをする際に土地境界線の目印である境界石を
きちんと確認しなかったことが原因となり得ます。
越境物に対する対処方法
では越境物が存在する場合、土地所有者としてはどのような対処をするべきなのか。
自己の所有地上に他人の所有物がある場合、土地所有者は相手に対して
①その物の撤去を請求すること、または
②土地所有者自らがその物を撤去して、その費用を相手に請求すること、のいずれかが認められます。
土地の所有権が他人の物の存在によって侵害されている場合
所有権の完全な実現を回復するために、その排除を要求する権利があります。
所有権という物権を根拠とするので、「物上請求権」とも呼ばれています。
したがって冒頭の例にあげたBさんの物置小屋についても
Aさんは、これを取り壊して撤去することを請求できます。
また隣地のBさんが石材屋さんで積み上げられた石材が境界線を越えていれば
これをどけてくれと請求できますし、Bさんがこれに応じない場合は
Aさんが自ら便利屋さんを依頼して移動してもらい
その人件費をBさんに請求することも認められます。
あるいは台風でBさん宅の屋根瓦がAさんの土地に落ちてきた場合も同じです。
さらにBさん宅の出窓や屋根の庇が境界線を越境した位置にある場合や
Bさん宅への水道管・ガス管が地中で境界線を越境した位置にある場合も同様です。
「土地の所有権は、法令の範囲内において、その土地の上下に及ぶ。」と
定められているからです。
越境物の覚書とは
さて、お隣さん同士の関係をスムーズに運ぶためには越境物があるからと言って
何でも直ちに撤去を要求することがベストであるとは言えません。
越境物が発見された場合、その事実を確認し現状の変更は求めないものの
将来的には是正することを約束してもらうことが現実的な対処というケースは珍しくありません。
そこで、このような解決について合意したことの
証拠とするために作成する書面が「越境物の覚書」です。
今の時点で撤去を要求しないのであれば、格別、覚書など作らず
放置しておいても構わないのではないか?と思う方もいらっしゃるかと思います。
しかし越境物の存在が判明したら、放置することはオススメできません。
何故なら、そのままにしておくと、越境物が占有している部分の土地を
お隣さんに時効取得されてしまい、その部分の所有権を失ってしまう場合があるからです。
他人の所有地であっても平穏公然に20年間これを占有し続けたとき
(占有を開始した時点で自分の土地と無過失で誤信した場合は10年間)は
その占有された土地部分の所有権は占有していた者が取得し本来の所有者は所有権を失います。
これが長年継続した事実状態を尊重する取得時効制度です。
取得時効の完成にストップをかける方法には
訴訟の提起など複数のものがありますが
もっとも簡便なのは占有者の「承認」を得ることです。
承認とは取得時効によって権利を得る立場にある者が
権利を失う立場にある者の権利の存在を認識している事実を表示することです。
承認があれば取得時効の進行は、そこでストップし、その時点から改めて時効の進行は
カウントのやり直しとなります。これを時効の更新と呼びます。
越境物の覚書を作成して越境の事実を確認することは
まさに承認に該当し、取得時効の完成を阻止することができます。
ただ、再度20年が経過すれば取得時効されてしまいますので
20年ごとに越境物の覚書を作成して越境の事実を確認するなどの「承認」を得ることが必要となります。
越境物の覚書の効力
越境物の覚書は当事者同士の一種の「契約」です。
例えば、越境物の所有者が建て替え時に撤去すること
反面、越境された土地の所有者は、それまで撤去請求を猶予することを
双方が合意すれば、この約定に従う債権債務が双方に発生します。
ただし、あくまでも覚書を作成した当事者同士の債権債務ですから
これらの土地が第三者に譲渡された場合の新所有者が当然に
この覚書の内容に拘束されるわけではありません。
この点、上記のように、双方とも土地を第三者に譲渡する場合は
新所有者に当該覚書の内容を引き継がせることを約束する条項を定めることが多く
土地を譲渡する者が、新所有者に承継させる義務はあるものの
新所有者がこの義務を承継するか否かは新所有者が同意するか否かにかかってきます。
旧所有者が、この覚書上の義務の承継が土地譲渡の条件であるとして
新所有者が、この義務を引き継ぐ旨を土地の売買契約書に明記するなり
別途、新所有者との間に合意書を交わしてくれれば良いですが
そうでない限り、新所有者にこの覚書の約束を引き継がせるためには
改めて新所有者との間に覚書での合意を結ぶ必要があります。
なお覚書に取得時効を更新する効力もあることは前述したとおりです。
まとめ
今回は越境物の覚書について解説しました。
不動産売買に携わっていると、それなりの頻度で何らかの頻度で覚書が出てきます。
水道管や枝木、増築部分や物置の越境など、様々な事象を経験しました。
郡山市内で越境について、お悩みの方は当社にご相談ください。
当社では不動産売買を検討しているお客様にとって、お役立ち情報を随時更新していきます。
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